その人らしい装いはどのようにして生まれるのか——自分らしい生き方を確立している方たちのライフスタイルとお気に入りの一着との関係性を紐解く連載『私を語る一着』。
第5回にご登場いただくのは、おしゃれとセルフケアを両立するウェルネスブランド「MAEÉ(マエエ)」を運営する株式会社encyclo代表の水田悠子さんです。
上質な素材に洗練されたデザイン、豊富なカラーバリエーションが特徴のMAEÉの着圧ソックス。ファッション関係者からの支持もあつく、おしゃれ小物として存在感あるアイテムは、実はもともとは医療用品から着想を得たもの。
リンパ浮腫を発症し、医療用ストッキングが手放せなくなった水田さんご自身の経験から、”体のケアをしながらおしゃれを楽しめるもの”を求めて開発されました。
今回ソージュのお気に入りとしてピックアップしていただいたのは、リモンタコートワンピース。光沢が美しいキャメルにメランジ感あるナチュラルなソックスの組み合わせも新鮮です。
その着こなしに表れているのは、自分らしくおしゃれを楽しむ、水田さんのポジティブな心持ち。困難を糧に変え、前へ進み続ける彼女のストーリーをお届けします。
身につける人の気持ちが前向きになるように
「MAEÉ(マエエ)」は、ファッションを楽しみながら体のケアができる着圧ソックスを扱っています。医療用品として認可を受けている商品ですが、見た目はおしゃれなソックス。表地にはコットンの中でも特に上質な超長綿を使い、素材にもこだわっています。
私自身がリンパ浮腫という病気で医療用ストッキングを身につけなければならなくなり、はき心地の問題は誰よりも深刻に考えていたんです。最初に病院で処方されたストッキングが本当に驚くほど分厚くて硬くて、はくのもすごく時間がかかって大変だったんですね。
どこかに良いものがあるはずだと必死になって探しましたが、理想のストッキングはこの世に存在しない。だったら私が作るしかないと、技術者の方に相談して開発しました。
だから、MAEÉのソックスのはき心地には相当自信があるんです。身につけることで自然と気持ちが前向きになって、何かにチャレンジしたくなるような商品を届けたい。ブランド名にはそんな思いを込めています。
リアルにずっと愛用している「リモンタシリーズ」
ソージュの服は、取材などで人前に出るときによく着ています。今日はこのリモンタコートワンピースにスカートを合わせましたが、下にワンピースを着ることもあるし、コート代わりにすることもあります。ドローコードを絞るか絞らないかでも印象を変えられて、一着で色んな着方ができるところもいいですよね。
仕事柄ソックスを見ていただきたいのですが、あまり脚を露出したくはないんです。そんなときもサイドのスリットのおかげで、ほどよく脚見せができるので重宝しています。
リモンタシリーズは高見えする素材感とお家でケアできる気軽さが大好きで、スカートも購入しました。このワンピースもキャメルが発売された当初から持っているので、もう5年くらい経つのではないかなと思います。
ソージュはリアルにずっと愛用しているブランド。市原さん(ソージュ代表)の起業の経緯や人柄に触れてすっかりファンになってしまったこともあるのですが、ブランドコンセプトにも強く共感しました。
私はトレンドを追いかけるよりも“自分の個性を引き立ててくれるもの”という観点で洋服を選ぶタイプなのですが、ソージュの服には、タイムレスな魅力を感じています。今回ソックスを取り扱ってくださることで、その世界観に仲間入りできるのはすごく嬉しいです。

リモンタコートワンピースに合わせてくださったのは、「MAEÉ / コンプレッションソックス(コットンリブタイプ)」。ソージュオンラインストアでも販売中。
ビューティーはすべての人に保障されるべき基本的人権
装いは、なりたい自分を実現するための強力なツールだと思っています。よく内面の美しさが大事といいますが、だからといって外側の美しさを下げて言う必要はないですよね。
そして美しさについては正解も不正解もない。その人がなりたいものが全てだし、それが叶えられる世の中であってほしいと思っています。
私は新卒でポーラに入社して、ずっと商品企画の仕事に従事してきたのですが、あらゆる属性のあらゆる嗜好性の方に対して、ビューティーを届けてきたと思っていました。でも29歳の時に病気になり、後遺症で着圧ストッキングをはかなければいけなくなったときに、自分に向けられた商品がなにひとつないことに愕然としました。
世間のマーケティングターゲットから外れたことがショックであると同時に、私自身がほんの一部の対象しか見ていなかったのだと、まさに目から鱗が落ちるような気づきでした。
14歳ではじめてビューラーを使ったときのことを今でもよく覚えているんです。まつ毛がくるってなっただけで自分がすごく可愛くなった気がして、目の前に光がさしたみたいな感覚になったんですね。
この感動を届ける側になりたいと心に決めて化粧品会社に入りました。その時からずっと、なりたい自分に近づくということに対して夢を持っていたので、リンパ浮腫になったときはどうしたらいいのかわからなくなってしまって。
おしゃれで素敵な女性が多い職場で引け目を感じて、気持ちもすごく後ろ向きになってしまったんですね。「命は助かったけど、もう足のために生きていくしかないんだ」と思い詰めてしまうこともありました。
そんな経験をしたからこそ、“前へ”という気持ちをどうしても世の中に届けたい。好きなものを選べたときの高揚感を大切にしたいと思います。
私にとってビューティーは贅沢品とか嗜好品ではなく、基本的人権。自分らしく装いたいとか、なりたい自分に近づきたいというのは、すべての人間に平等に保障されていてほしいですね。

あらゆる存在を肯定する人でありたい
着圧ストッキングの開発を目指して社内起業したときに、エンサイクロペディア(百科事典)から取って、会社名をつけました。百科事典はあらゆる知識を網羅しているイメージがありますが、「インサークル(輪になって)」という言葉が語源なのだそうです。
このブランドも、患者さん、お医者さん、技術者の方、ファッション関係の方々.....立場を超えて、輪になって前進していきたいという思いがあります。
私の理想は、すべての存在を肯定する人。スキルや見た目、属性で判断するのではなく、その人がいること自体を肯定する人間でありたい。そのためには自分自身の状態がよくないといけないですよね。
だから、食事や睡眠、休息を欠かさないようにして、フィジカルなコンディションを整えることを心がけています。あと、目の前にいる人の素敵なところをなるべく素直に伝えるようにしています。
はじめは身につけるのも嫌だった着圧ストッキングも、10年以上はきつづけて、気がついたら20代のときよりもずっと疲れにくいし、調子がよくなっていました。だから、これってすごく体にいい習慣なんじゃないかなと。
たくさんの女性たちのライフスタイルに取り入れていただいて、おしゃれを楽しんでいるうちに心も体も元気になってもらえたら嬉しいなと思います。

聞き手/文:中島文子
《Profile》
水田悠子
東京生まれ。2005年(株)ポーラに入社し、販売現場や、新商品の企画開発を経験。2012年29歳のときに、子宮頸がんを罹患。1年あまり休職して治療に専念した後、同職場に復帰。2018年よりグループ内のオルビス(株)に異動後も商品開発に携わる。2020年5月、ポーラ・オルビスグループより(株)encycloを創業。
水田悠子さんの一着



