その人らしい装いはどのようにして生まれるのか——自分らしい生き方を確立している方たちのライフスタイルとお気に入りの一着との関係性を紐解く連載『私を語る一着』。第7回にご登場いただくのは、民間企業と大学に籍を置き、地方創生や観光をテーマに、研究や後進育成に邁進されている木村ともえさんです。
現在、東京の企業で働きながら、和歌山大学大学院 観光学研究科の准教授として教鞭を取る木村さん。二拠点に職場がある生活は相当にハードなはずですが、ご本人はというと、厳しさは微塵も感じさせず、柔らかな笑顔がとてもチャーミング。細やかな気遣いに時折ユーモアを交えつつ、場を和ませます。
多忙なスケジュールをこなすために、木村さんが大事にしているのは、ライフスタイルを通して頼れる定番をつくること。そんな彼女が装いの定番としてずっと愛用しているという、ソージュのタックパンツ。この一着が物語る、彼女のストーリーをお届けします。
体調が最悪だった頃に出逢った、ソージュのスタイリングサービス
私はもともと服選びができない人なんです。お店の店員さんは商品を勧めてはくるけれど、アドバイスはあまりしてくれないですよね。どうしようと思っていたときに、体型や服選びの悩みに対する市原さん(ソージュ代表)の考え方を知り、共感しました。
2019年に名古屋から東京に引っ越してきたのですが、東京の家は家賃が高くて狭いから、何もかも捨てるしかなく、大断捨離をしました。そこで新たに服が必要になり、本当に困ってしまって。代官山のソージュのサロン(現在のSOÉJU Fitting Room)で、スタイリストさんが相談に乗ってくれるということで、ここに託そうと思いました。
ソージュのスタイリストさんは商品を無理に勧めることがなく、距離感がすごく良かったんですね。だから、私も自分の悩みを言えたのだと思います。当時は、上京して大学院に入ると同時に、転職までしてヘトヘトで。腰痛や体型の悩みもあり、体調が最悪の時期でしたが、そういう背景も全部ひっくるめて、ライフスタイルとしてスタイリングを提案してくれました。
今日着ているノーカラージャケットとタックパンツもそのときに購入しました。気兼ねなく着られる上下のセットアップを探していたものの、しっくりくるものが全然見つからなくて諦めていたときだったから、本当にありがたかったです。
ソージュの服は、出過ぎず、出なさ過ぎずの絶妙なラインを保っているのが魅力ですよね。よく考えて作られているなと思います。

タックパンツが職場のマストアイテムになった理由
定番として普段から穿いているタックパンツも、すばらしく良くできているなと思います。斜めに入ったタックが秀逸で、お腹いっぱい食べても気にならない(笑)。生地にハリがあって、洗濯してもよれないし、くるっとたたんでも大丈夫だから重宝しています。
最も活躍するのは、入試の試験監督をする場面です。試験会場では、受験生が緊張して物を落とすことがあるのですが、それを瞬時に拾ってあげなくてはならないんです。受験生たちの大きな鞄が引っかかっている机の脇を、できるかぎり音を立てずに、すばやく通るのですが、そんなときもこのパンツなら、裾をひっかけることもなく、忍者のように動ける。シワになったり、よれたりすることもないので、その後もずっとオフィシャルな感じは保ったまま、試験監督らしく振る舞えます。
そもそも私はスーツが苦手なのですが、ソージュの場合、服に着られてしまう感じがないのもいいですよね。威圧感はないのに、人をきれいに見せてくれて、着心地が楽なのもいい。動きやすいというのは私にとって欠かせない要素です。
ひとつひとつの選択がいまの自分をつくっている
現在、国のクロスアポイントメント制度で民間企業の勤務と大学の研究が叶い、大学では、観光地のプロデュースやツアーのプランニングなど、現場で取り組んできたことを、理論を交えて教えています。
でも、初めからこのようなキャリアを描いていたわけではないんです。選択を繰り返しているうちに、そうせざるを得ない状況になっていたという方が近いでしょうか。
和歌山大学の現在の職も、旅行会社で働いていた頃の経験を買ってくださった方がいて、「大学教育も変化していて、君みたいな経験者のニーズもある。大学は研究もできて面白いから、公募を受けてみたらいいよ」と言っていただいたことがきっかけになりました。ただ私としては、観光に関わる仕事をたくさんしてきたものの、人に教えるとなると自信がなかったんですね。
ちょうどその頃、東京の大学に尊敬する先生がいたのですが、その方がもう退官してしまうという話を聞いて。自分の中の軸を持つためにも、その先生の門下生としてどうしても学んでみたいと大学院の扉を叩き、MBAの修士課程を修了しました。ずっと悩み、考えつづけて、一気に行動に移す性分なんだと思います。
毎年小さくチャレンジを続けていますが、すぐに物事は動かないし、すぐに何かが変わるわけでもないんですよね。時間が経ってやっと芽が出るという感覚があって、いつも大体10年くらい先のことを考えながら、動いています。
一方で、最近は時間が有限であるということをひしと感じるようになり、自分の限界点を意識して予定を立てるようになりました。いまは自分の機嫌を自分で取るための鍛錬をしているところです。

「いろいろと考えすぎて、頭が痛くなってしまうことがよくある」という木村さん。疲れたときは、「かっさプレート」で頭やこめかみをマッサージ。ご友人がプレゼントしてくれた手作りのポーチに入れて、いつも大事に持ち歩いているのだそう
人が楽しそうにしているとほっとする
忙しいからこそ、どうやって自分の時間を確保するかというのは取捨選択だと痛感しています。私の場合はちょっと体を動かす方が楽だし、気分がすっきりします。
最近、ノンアルコールのクラフトジンを開発してプレゼントしました。それもやってみたらできたという感じなんです。長年お世話になっている方が脳梗塞になり、アルコールをやめられたのですが、飲みたいなとおっしゃられて。ありがたいことに、味わった事がないような未知の商品を作ってくれる仲間にも恵まれて、無事に完成しました。お酒が飲めなくて....と言っていた方から、「美味しい」という言葉を聞くとやっぱり嬉しいですよね。
私は人が笑っているのが好きなんです。緊張感のある日常があっても、旅先でみんなが楽しそうにしているのを見ると平和だなと思います。そうすると私自身の緊張もほぐれて、ほっとするんです。自分を出すことで幸せになるかというと必ずしもそうではない。だからこそ、自分の機嫌はちゃんと自分で取れないとダメだなと思います。
装いも、自分のためだけであれば自分が楽しければいいけれど、人前に出るときは相手のことを考える必要があると思っています。そして長く物を使い続けたいので、流行にとらわれない、年齢に合った見た目をつくってくれるものがいいですね。私は服選びができない人だから、結局ソージュに行き着きます。
7年前から続けているパーソナルトレーニングも、美容院も、お医者さんも、私は自分のご贔屓をみつけて長いお付き合いをするタイプ。朝の散歩道や週末のウォーキングの場所もそうですが、お気に入りをつくることでリラックスするのだと思います。

聞き手/文:中島文子
《Profile》
木村 ともえ
2013年より地方創生と観光振興に従事。観光地域ブランディング、ターゲットマーケティング、大学との共同研究などに携わる。2023年4月からは、大学で観光戦略の立案、地域体制整備、観光調査などのアドバイス、観光資源活用・地域文化に関する研究と後進育成に取り組む。
法政大学イノベーション・マネジメント研究科 情報管理修士(MBA)修了株式会社ジェイアール東日本企画 社会事業・再生推進室 部長 国立大学法人和歌山大学大学院 観光学研究科 准教授(クロスアポイントメント)
木村ともえさんの一着




