【映像監督・芳賀隆之氏インタビュー】ソージュの物作りと通底するブランドムービーはどのようにして完成したのか

真剣なクリエーションの裏側には、通底する作り手の哲学やスタイルがあるはず──。

当記事は、商品開発において一つ一つのストーリーを大切にしているソージュが、ブランドムービーの制作においても符号があったバックグラウンドストーリーを、映像監督・芳賀 隆之氏へのインタビューを通じて浮かび上がらせる試みです。

>>ソージュ ブランドムービーはこちら(Youtubeに遷移します)

文/市原明日香(SOÉJU代表)

Profile
芳賀 隆之(Takayuki Haga)
ブランディングエージェンシーでキャリアをスタートした後、フリーのディレクターに転身。主にファッションやビューティーを主軸とした広告プロジェクトにおいて、企画立案からディレクションまでを手がける。クリエイティブな視点からブランドのアイデンティティを引き出し、洗練された映像美と被写体の魅力を際立たせる演出が得意。

最初の印象は、「ベーシックだからこそ、色付けが難しいかもしれない」

ソージュ代表・市原明日香(以下、市原) 改めまして今回は、ソージュ初のブランドムービーを素敵なものに仕上げてくださって、ありがとうございました。制作いただくにあたってのコミュニケーションはさせていただきましたが、より作品を深く味わいたく、改めて監督個人のことや制作サイドの空気感や想いなどのバックグラウンドをぜひ聞かせてください

まず、オファーが来たとき、率直にどう思いましたか?

映像監督・芳賀 隆之氏(以下、芳賀) 最初は「ベーシックウェアってすごい難しいな」と思ったんですよ。ベーシックウェアというものはあまり色数がないイメージで、それは本来長所になるものじゃないですか。それを、動画とか広告においては色付けしないと、印象には残らなくて。それをどう扱うか…。

なるべくインパクトがあるものというか、ブランドとしてまだリーチできていない人への認知を広げたいというのが主目的だったので、既視感のないものだったりとか、映像としてボールドなものを描きたいっていうお話があって。ただ、ブランドや最初の企画コンテがベーシックなものだったので、これをどう色付けしていこうかなっていうのはちょっと難しいなと最初思ったんですよ。

ブランドを深掘りする過程で、変わっていった印象

芳賀 ソージュのオンラインストアを見て、「ベーシックなブランド」からちょっと印象が変わったというか、一番びっくりしたのは、商品ストーリーでした。

洋服のディテールや商品開発のストーリーについて、ほとんどの商品がこと細かく説明されてるっていうのは、デジタルメインのブランドとはいえ僕からするとすごく珍しいな、と思って。商品に対するこだわりは半端のないものがあるんだなっていうところから考えていきました。普段はあんまり商品のディティールって見ないんですけどね。

広告を作るときって、どちらかと言うとブランドが持ってるイメージとか世界観みたいなものを汲み取って広げていくっていう感じのやり方をしていくことが多いんですけど、ソージュの場合はもっと服を深掘って見ていった方が、インスピレーションが出そうだと思って。かなり僕もウェブサイトを読み込みました。

▲「商品ストーリー」とは、背景やプロセス、作り手の思いなどが書かれた、ソージュ特有の商品紹介。オンラインストアの各アイテムページで読むことができる

芳賀 ムービーで使う想定の商品は何が優れているのか、を全部並べてみて、なるほどこういうブランドなのかというところをまずは吸収して。自分がこのブランドの中の人だったら、何を打ち出したいだろうというところから考え始めました。

市原 打ち出したいことはありつつ、「初めまして」のブランドムービーってあまり説明的であってもいけないというようなところもありますよね。バランスを取るのが難しかったりしましたか?

芳賀 自分のスタイルの話になってしまうんですけど、音楽と映像でなるべく見せたいと思っていて。ロジックではなくて、もっと感覚的なものに僕は寄り添って考えたいので。まずは音楽と映像の表現、演出でソージュのブランドを伝えたいな、っていうのがありました。

なので、どういう音楽を当てるかに結構時間を使いました。企画コンテの時点では、本当は日本語でもう少し言葉が入ってたんですよ。ブランドプロミスのところに日本語がもっと実は入っていたけれど、結局それは全部なくしたんですね。英語の単語だけにして、最後のキャッチコピーだけを読む、っていう構成にしたので。極力情報を省いて、いかに直感で感じてもらうかっていうのを、考えましたね。

一番何か大切に届けたいものというか、そういうものだけを最後に残していくっていうのがブランドにも合ってるかなと思っていて。あんまり装飾過多じゃなかったりとか、本当に大切なものをカスタマーに届けている。省けば省くほど勇気がいるというか、結構その省いて残ったものにはより何かこだわりが必要になってくるんですが、その説得力はすごくあるなと。語らなくてもわかるものをブランド自体が背負ってるから、実はそこはあまり難しくなかった。

もちろんぱっと15秒の動画を見ただけでは受け取れることに限りはあるかもしれないですけど、気になったときに、ウェブサイトを見ればあれだけの情報量が書いてあるから。このブランドだからCMでは、そうですね、言い過ぎない方がいいかなって感じました。

昔、スティーブジョブズの本を読んでて、記憶に残ったちょっと面白いエピソードがあって。アップルが新しい広告を作るときに、制作チームが「15秒もあるから機能を5個紹介できる」みたいなことを言ったら、ジョブスがそこにある紙を5個丸めて「この紙をキャッチしろ」って言って投げたら相手は1個もキャッチできなかったと。情報っていうのは多ければ多いほどいいものではなくて、やっぱり一つに絞って出した方がいいんだ、みたいなことを読んでから、そういう表現をなるべく心がけてます。

似て非なるもの。洗練された女性像を通じて、シンプルではなくミニマルの表現を

芳賀 僕は「洗練」という言葉の意味をいつも探っていて。洗練されてるって、いろんな解釈、いろんな使われ方をしていると思うんですけど、要は、紆余曲折を経ていらないものを削ぎ落としていって、その人の全てが整った状態が洗練なのかなと思っていて。

今回の動画も、全部の映像の真ん中に人物がいて、同じ方向に歩いていて、表情も基本的にずっと同じ。それ以外のことは一切やらずにその軸の中で生活の1周を見せるという。ベースを作る服、と言ったときに、人のベース=住処だから、部屋から始まって部屋で終わらせるっていうのも大事でした。やっぱり服って部屋で着て、出かけて帰ってきて脱いで、っていうのがベースになるものだと思うので。

ただ、ミニマル=単調ではないという。シンプルとミニマルって似て非なるもので、ミニマルという言葉って、別に物が少ないっていうだけの意味ではなくて、大事なものが残っているっていう意味だと思うんですよね。

市原 実はソージュの服も、要素を削ぎ落とすだけではなくて、何かしらひねりというか、ソージュの服にしかないアプローチでのさりげない高揚感の表現も目指しています。確かに今回の作品は、余分なものは削ぎ落とされている中でも、視聴していて広がりを感じます。

芳賀 はい、なので例えば今回の動画が部屋の中だけで完結していたら、シンプルだけど、そうはしなかった。同じフォーマットの中で、実は背景が4つ変わるのって結構珍しいケースで、だから、絵としてはすごく単調というかシンプルなのに背景はかなり広がりもあって、抽象空間に入ることでさらにいろんな見え方もするので、そこを意識して作りました。

ソージュを纏う女性像も、あえて言葉で表現するなら「洗練」だと思い、動きよりattitudeだけで表現したいというのがありました。「洗練」という言葉には、洋服がもつイメージだけではなく、着る人そのものも含まれていると思っています。人物は静的に、絵的なトランジションのみ動的に表現することで、コントラストもはっきりさせました。ブランドの持っている女性像・世界観は上品だけれど、そこにダイナミズムを載せたかったので。ちゃんとそこにリズムがあるというか、人間味があるみたいなものを意識して作りましたね。

▲主人公の女性は様々な空間を闊歩する

ロジックの先へ。端っこにあるものを太くしてみたい

市原 今回のインタビューの前に、芳賀監督が好きな映画を教えてくださいという質問をお送りしていました。複数の映画を挙げていただきましたが、どの映画の監督も個性的というか、ある意味スタンダードな描き方ではない、何かそれぞれちょっと尖ってる部分がある方々なのかなと感じました。今回の作品もザ・スタンダードではないという意味では、言葉が適切か分かりませんが、さりげない反骨精神的なものを感じました。

芳賀 もちろん、ブランドのイメージを作るっていうことを最大限考えるところが基本なんですけど。もう1本の軸で、自分の作家性もやっぱり考えてはいて。見たことがあるものとか、ありふれたものは作りたくないっていうところを、もしかしたら感じていただけたのではないかなと思います。今回は、王道を攻めるのは他のブランドがやればいいので、やっぱりソージュが持ってるイメージを、真ん中にあるものじゃなくてちょっと端っこにあるものを太くしてみようみたいな感じでやった方が、ブランドのイメージの定着につながるのではないかなと。

市原 ありがとうございます。私は、作家性を込めていただけるということは、僭越ながら込める価値があると思っていただけたということなのではないかと、すごくありがたく思います。素人ながら、商業デザインとアートって何が違うんだろうって考えていまして、商業デザインにも、その時代の空気感は放っておいても現れてしまいますし、それを作るクリエイターさんの哲学も何かしら現れるのではないかなと思うんですよね。今回もちろん制約や表現してほしいものありきという意味では、純粋な作品ではないかもしれないですが、ただ、それをどう表現するかという手法にはすごくスタイルが現れる、という意味では線引きって結構曖昧なのではないでしょうか?

芳賀 僕自身クリエイターとして、商業性とアート性の両立っていつもぶち当たる壁で、本当は両立できたらいいなと思っていて。商業にも人が関わっているからには、やっぱりアート性も必要で、その人のアート性、エゴともいうのかもしれませんが、それが商業を引っ張るっていう側面もあるんじゃないでしょうか。そういう風に捉えていただけたのだとしたらむしろ僕にも嬉しいお話で、そういうふうに寄り添っていただけると、Win-Winな関係になると思うんですよね。例えば商業はもう商業に触れ振り切れ、っていう話だったら、多分全部同じような話になっちゃうと思うんですよ。全部ロジックになっちゃって、それはもう全然面白くない世界だと。だからそういう風に捉えるブランドさんが増えていくといいなって思いますね。

ソージュのものづくりとも通底する、予定調和ではないアプローチ

芳賀 最初に絵画が飾られてるところにカメラが寄って、それが街のシーンに切り替わるっていうそこのトランジションの表現は、ともするとすごいチープな演出になってしまうので。そこはかなりチャレンジングでした。どうやったらこの15秒で面白く導入できるかなっていう話の中で、ただ人物に寄っていくんじゃなくて、1アクションあった方がいいんじゃないかなみたいなのはもうディスカッションで決めてたって感じですね。あのトランジションがあるか、急に街の横歩きで始まるかで、動画の印象って全然違ってくるので、一番気を使いました。

▲冒頭トランジション部分。主人公の後ろに飾られている絵画に吸い込まれ、シーンが切り替わる

市原 絵の中に落ちていくようなシーンはとても印象的でした。何か着想源があったのでしょうか?

芳賀 落ちていくような感じは、ロケハンの中で決まりました。下から見上げた建物の絵って綺麗だよねから始まって、ここから繋げるんだったら、下にカメラを落とそうかっていうような。動画って制作期間が長いので、もちろん最初にある程度は決まってますけど、あとはロケーション見に行ったりとかの中で決まっていくことも多いです。カメラマンの大野さんっていう方と話していく中で、だんだん肉付けがされていきました。海辺のシーンで追加した鈴の音も、最初から決まってたんじゃなくて、もう本当に最後の最後で決めたんですよね。

クラシックさに現代性をミックスすることで表現する個性

芳賀 根底にあるのはミニマルっていうワードなんですけど、とはいえ今この時代に作るのであれば現代性というかモダンさみたいなものは必須だと思ってるので。音楽は、なるべく音数の少ないミニマルな音の裏に、環境音やノイズを入れて、昔のものと巷に溢れてる音をミックスするのが、モダンかなっていうのがありました。足音とか、街の喧騒、車の音とか海の音、思いつくものは最初から入れてたんですけど、ちょっと足りないなっていうのがあって。それは何か感覚的に物足りないなと思うところで、何で物足りないかっていうとやっぱり”見えてる”音しか入ってないからなんですよね。

市原 私達が定番をどういうふうに捉えてるかというと、ベーシックというだけではなく実はクラシックであることも大事にしています。クラシックなものって、ずっと使えるじゃないですか。ただ、単に焼き直しのクラシックではソージュが今改めて作る意味がないので、着る人より前には出ない程度に少しずつひねりを加えています。そのひとひねりって言わないと多分わからないことなんですけど、でも多分それがあるから、違いを感じていただけるんじゃないかなと思って。物の作り方のアプローチがすごくリンクしているんだなと思って、今お話を聞いていてとても嬉しかったです。

芳賀 一つのものだけを突き詰めるって、やっぱりある意味簡単なようで難しくて。ミックスすると、個性は出ますよね。音楽に関しては、ピアノだけでクラシックさと現代性を両方表現してくださいっていうのはなかなか難しいなと思って、環境音とかSEと呼ばれる効果音っていうものも音楽の中に組み込むような考え方をしますね。

音で表現する、ピュアな華やかさ

市原 今回の作品は、目を瞑って音だけを聞いても楽しめるくらいだと感じました。映像作品は、音によって印象が全く変わりますよね。

芳賀 映画において映像と音は、50%ずつ影響する、と言われています。僕は、どちらかというと音にこだわる方かと思います。どうしても音に対して敏感になってなかなか進まない時もある。そういう性質を知ってか、プロダクションの人が最後まで寄り添ってくれる人を紹介してくれたおかげで、最初の打ち合わせからすごく意気投合して、同じ方向を向けて制作できたのは本当に良かったですね。

僕の最初のインスピレーションがミニマルミュージック、でも音楽自体はクラシック、っていう感じです。あくまでも着想がミニマルミュージックなだけであって、映像としての華やかさはすごく大事にしていました。誰が聞いても心躍るというか、そういうピュアさみたいなものは音楽に結構背負わせてるっていう感じです。だから、生演奏にもこだわりましたし、シンセサイザーとかエレクトロニクス系の音楽ではなくて、アコースティックな楽器をベースにしました。

言葉はもうボールドに絞り込みつつ、何か感じるもので華やかさをトッピングしたい、映像と音楽で伝えられるものはなるべく伝えた方がよいなと。ブランドのウェブサイトも、上品にまとまっているけれど、実は色彩感も繊細で豊かですよね。ベーシックだけじゃなくて、何か色があるというか。だから、何を音楽に背負わせるかっていうときに、ブランドの洋服が持つ、クラシックでシルエットは綺麗なんだけど素材感とか風合いの華やかさみたいなものは、音楽でも表現してもらってるっていう感じです。

▲ブランドムービーは、ぜひ目を瞑って、音だけでも楽しんでほしい

誰もこぼれない現場で、最後の1ミリまでつきつめて得られるもの

市原 クリエイティビティを突き詰めようとすると、ある意味ストイックにもなりがちだと思うのですが、今回の制作現場は緊張感のあるものだったのでしょうか?

芳賀 自分の哲学っていうほど大げさなものじゃないですけど大切にしてることで、誰もこぼれない現場、を結構心がけていて。現場の雰囲気って作品に表れる気はしますよね。心が踊る感じには、撮っている側の空気感が大事ですね、やっぱり。実際に映像に現れるかどうか僕はわからないですけど、自分が見返したときにも、良かった撮影現場みたいなものとか、良かった打ち合わせみたいなものを思い出したいじゃないですか。なるべくいい思い出をそこに詰めておきたいみたいな思いがあるので、それが人にどこまで見えるかわからないですけど、なるべく意識をしたいですよね。

制作の現場では、皆さんそれぞれこだわりたいところというか、想定してるクオリティがあって。例えば、公園の緑を入れたかったけれど見つからなくて海になって、でも当日歩いていいスポットを見つけられたのはプロセスの中でアットホームにディスカッションをして最後の1ミリを頑張れたから、のような。最後の1ミリを神様が提供してくれたのかなというようなところは、とても良かったですね。

最後の1ミリまで頑張るっていうのはなんか僕の中ではもうビジネスの粋というか、合理的な判断じゃないなと思っていて。合理的に見たら1ミリを頑張ることよりも、もっと生産性を高めることの方が大事かもしれないですよね。でも、自分が後で見たときに悔しくなりたくないというので、やっぱり最後の最後、何とか頑張れるまで頑張りたいっていうのがありますね。

映画のような質感を目指して

市原 制作現場の空気感と、最後の1ミリまで頑張るスタンスが作品にも表れるというところに、とても共感しました。最後に、何か映像そのものの表現でも工夫されたポイントはありますか?

芳賀 今回、映画のような質感を目指してカメラマンと追求したのですが、全体的に色味を抑えた世界観にして、シーンごとに見せたい色を抽出して強調していくっていうようなやり方をしています。それが映画的な質感のひとつのゴールでした。実は、印象的には多分晴れやかで華やかなんですけど、実は色を1つずつ見ていくと、結構抑えられたトーンなんですよね。それが多分、洗練さとか上品さに繋がるのではないかなと思います。

いつか映画を撮りたいと思っているんですが、言葉に極力頼らず、音楽や音を主軸にした映像表現を突き詰めてみたいんですよね。言語化できないようないろんな感情とか、気持ちとか方向性みたいなものを。今回のようなお仕事でも、ブランドに合う音楽を一番最初に決めて、それを全ての柱に始めていければ、一番しっくりくるものが作れると思っているんですけど、その進め方って抽象性が高い故にリスクも大きくて。なかなかやれないんですけど、いつか挑戦してみたいですね。

写真向かって左が市原。右が芳賀氏

監督の作品作りへの妥協のないスタンスと、制作現場の宝物のような空気感。クラシックな定番アイテムに何かしらモダンな要素をミックスするソージュの物作りとも通底するアプローチをインタビューを通じて垣間見たことで、ますます私たちも作品への思い入れが深まりました。

最後の1ミリまでこだわったブランドムービーから、言葉を超えて。ソージュの描く女性像や、ブランドのスタイルを、観る方それぞれの感性で受け取って頂けたら、こんなに嬉しいことはありません。

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