Interview

アートイベント「The Fitting Room」を開催する理由

感じることを自由に。

アートが自己発見の機会になる

2023年の秋、SOÉJU(ソージュ)は5周年を迎えました。この節目のタイミングで、2回目のアートイベントを銀座のポーラ ミュージアム アネックスで開催します。コンセプトは「The Fitting Room」。ソージュの立ち上げ当初からアートディレクションを担当し、この5年間ブランドを共に作り上げてきた土田あゆみさん率いるクリエイティブチーム「Bangal Dawson」が企画制作を行いました。


今回、アーティスト 土田あゆみさんとソージュ代表 市原明日香のスペシャルインタビューが実現しましたので、その様子を皆さまにお届けします。

聞き手/文 中島文子

土田 あゆみ / Ayumi Tsuchida

ファッションとビューティーを中心に、国内外の様々なブランドのブランディングやキャンペーンを手がけている。2020年にクリエイティブスタジオ「Bangal Dawson」を設立。現在は、ニューヨークと東京を拠点に活動している。NYC在住。

市原 明日香 / Asuka Ichihara

1976年福島県生まれ。東京大学教養学部卒。2児の母。 アクセンチュア株式会社で3年間経営コンサルティングに従事、ルイ・ヴィトンジャパン株式会社にて4年間CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)に従事。息子の看病、フリーランスの期間を経て、2014年12月にモデラート株式会社を設立。

ソージュは「服を売る」から出発していない

ーソージュがアートイベントを開催するのは2度目ですね。ブランドの節目となるタイミングで「アート」と関わろうとするのはなぜですか?

市原:そもそもソージュは「服を売る」というところから出発していないんですね。「社会との接点における、ひとりひとりの自己表現の在り方についてのお悩みをどうしたら解決できるか」というところからスタートしたブランドなんです。その原点には、私自身のライフステージが変わっていく中で、装いに対する悩みが大きかったところも関係しています。もしも、何か心に蓋をしてしまっていることで、その人の在り方に制約が生まれてしまっているのであれば、それを気持ちよく外せる方法はないのかな?とか、当初からそんなことを考えていたんですね。


その部分にソージュ立ち上げ初期から共感していただいてる土田さんに、シャープな言葉にしていただいたのですが、それが "I like the way I am." です。この言葉はブランドのフィロソフィーとして立ち上げ当初から5年間、ずっと変わっていません。ただ、ブランドの思いを言葉でカチッと固めてしまうよりは、いろんな人にその人なりの感じ方をしてほしいということで、ブランドを開始して1年目にアートイベントを開催しました。コロナもようやく落ち着きましたし、5周年ということで楽しくリアルなイベントをやりたいなということで、まず土田さんにご相談させていただきました。

「The Fitting Room」は試着室をコンセプトにしたインスタレーション作品を展示

ーブランドの根幹にあるフィロソフィーの部分に最初に触れてきたのが、土田さんだったんですね。アートイベントの開催に思い至ったのも土田さんとの出会いがあったからでしょうか?

市原:そうですね。ただ、以前から自分の中に「アートで表現したい」という思いはありました。私がルイ・ヴィトンにいた時に、表参道のルイヴィトンが運営するギャラリー(エスパス ルイ・ヴィトン)がオープンしたこともあり、その時から、ブランドがフィロソフィーをアートで発信することに対して自然な感覚はありました。

ーブランドがアートイベントをやるということについては、土田さんは最初どんな印象を持たれましたか?

土田:最初のアートイベントは、ソージュが立ち上がって間もないタイミングで。アートに投資して挑戦するって、すごくクールだなと思いました。特にスタートアップ企業だと、なかなか初期段階で投資しようと思うファウンダーは多くありません。お金をかけるときに結果を気にしますよね。「これはどういう意味があるか」を、ちゃんと説明して全員が納得しないと進められないところが多いと思うんです。

ースタートアップでアートに投資するのは、なかなか勇気がいることですよね。

土田:アートには、解がないじゃないですか。だから、アートプロジェクトをやるというのは、ブランドの姿勢でしかなくて。でも、私はブランディングにおいて、その姿勢が一番大事なところだと思っています。市原さんのそういうところは海外的ですよね。しかも、作品制作に関しても、全て自由にやらせてくれた。たとえば、ソージュの服をたくさん展示しましょうという話ではなくて、「純粋にアート作品をつくりましょう」とおっしゃってくれていたので、それは私たちにとってもすごくいい機会だし、それを見に来る人たちにとっても、プラスになるんじゃないかなと思っています。


市原:本当にクールの極みの存在の土田さんに言われると、嬉しくてくすぐったい感じがします。でも確かに、当時仕事で関わる社外の方々からも、最初はちょっと不思議がられましたよね。実際当時はコスト面でもギリギリで。土田さんにもかなり手弁当で頑張っていただきました。

ーポーラ ミュージアム アネックスで開催するというのもいいですね。ソージュのお客さまに限らず、誰でも立ち寄ってアートに触れることができるオープンな機会だと思います。

市原:初回のアートイベントではブランドの認知度があまり高くないときだったのですが、ポーラ ミュージアム アネックスに定期的に足を運んでいる方もたくさん来ていただきました。今回はブランド開始5年目でそれなりにソージュのお客さまもいらっしゃると思うと、どんな反応があるかドキドキしますね。

"I like the way I am."という思想をもっとストレートに伝えたい

「試着室」は不確かな自分の輪郭を見つめながら、自らの一部に新しい何かを取り込もうと試みる場所。

ー今回の展覧会のコンセプトはどこから着想を得て、インスタレーション作品の構想を深めていかれたのでしょうか?

土田:出発点は、「I like the way I am.」というブランドのフィロソフィーです。あらゆる体型や年齢、人種の思想、多様なアイデンティティを肯定していきますというところですね。1回目は「BLESS THE DIFFERENCE.」というタイトルで展示をしましたが、その時は、同質化した世界をちょっと不気味に表現することで、同じであることを否定するような逆説的なアプローチをとりました。


今回に関しては、この「I like the way I am.」という思想をもっとストレートに伝えていきたいなと思ったんです。そこで、ファッションに紐づく要素の中で、どうしたら一番うまく表現できる可能性があるかなと考えたときに、記号的なアイコンになるのが「フィッティングルーム」なんじゃないかと思って。つまり試着室ですね。そこを起点に何ができるかを詰めていき、試着室という箱をコンセプトにした体験型作品を考えました。

ブランド1周年(2019年)に開催したアートイベント"BLESS THE DIFFERENCE."

フィッティングルームで出会う「社会との接点」と「自分らしさ」

ー「試着室」と聞くと、単純にそこでどんな体験ができるんだろう?とワクワクします。お店の試着室の場合は、鏡の前で服を合わせますが、この「服」に置き換える部分を、展覧会の要素としてあげるとしたら、何だと思われますか?

土田:大枠でいうと、「社会」みたいなところかなと思ってます。社会に対して自分はどういう人間なのかとか、どうありたいのかとか。あとは「自分らしさって何なのかな? 」みたいなところを、自分だけのプライベートな空間で、ひとつひとつ照らし合わせながら、自分の感受性と向き合うきっかけをつくれるといいなとは思ってます。


市原:個人的な話になりますが、ちょうど、これから自分たちの会社の存在意義をどう伝えていくかを改めて見直してる時期だったんですね。これから 10年、100年、モデラートという会社は、本当に世の中にとって必要なのかと改めて考えたときに、このフィッティングルームというコンセプトが、もう本当にバシッときたんですよね。私たちの価値って、今そこに集約されるなと思っていて。洋服の購入というよりも、フィッティングという体験がすごく大事だと思っているんです。しかも、購入に直接紐付かないフィッティングだからこそ、今買わないかもしれないものに対しても間口が広がるし、新しい自分に出会う可能性もある。ブランドの立ち上げから、ずっと関わってくれている土田さんだからこそ、こういうシンクロが起きるのだなって、すごく思いました。

「The Fitting Room」映像作品より

ー「自分らしさ」という抽象的なテーマについて、今回の展覧会ではどう具体化して表現しているのでしょうか?

土田:正直なところ、全然具体化はされてないと思っていて、抽象的なまま残されたところもあるんですけど。大きいスタンスとしては、この展覧会は、エントランスを含めると4つの空間から構成されていて、それぞれがアート空間になっているんです。自分を知るきっかけとなる3つの箱をつくっているような感じですね。その3つの箱は全部違うインスタレーションなので、それぞれ違う角度から、何か感じてもらえるような構成にしています。

ー前回は映像作品を展示されていましたが、今回も最後に映像作品を用意されていますね。映像には何かこだわりがあるのでしょうか?

土田:1番伝えやすいのが映像かなと思っていて。市原さんとミーティングしたときに「この展示が終わったときに、何か感じるものや持ち帰れるものがあればいいな」という話を聞いて、それがチームの課題としてトップに来たんですよ。何かを感じさせるために着地をつけないといけないと考えて、それなら映像がマストだと思いました。静止画のものと比べて、ストーリーもあるし、情緒も伝えやすいですよね。

ー鑑賞者に何か質量のある体験を残したい、という熱意を感じます。

土田:映像作品に関しては、素晴らしいスタッフが関わってくれたんです。監督は前回からのご縁もあり、林 響太朗さんです。他にも、通常であればなかなか依頼そのものが難しいところを、アートプロジェクトで本当にかっこいいことを突き詰められるのであればと各所からの熱量が集まり、スタイリストや照明、美術などのスタッフも、すばらしい方々が携わってくださいました。

「The Fitting Room」映像作品より

いまこの時代にあるものに触れる、ただそれだけでいい

ーいままでのお話を聞いてきても、ファッションとアートは全く異なる世界のようで、実は親密な関係にあるような気がしてきます。ファッションとアートが交わることで、お二人はどんな可能性を感じられますか?

市原:ファッションをアートとして展示することって、 なかなか認められていないような気はするのですが。ただ一般の私なんかが接する感覚としては、実は近いように感じています。服も素敵だなと感じるのに特に理由はないですが、アートを見た時の、これはすごく気持ちいい作品だなとか。これはザワザワするなとか、そういう感覚的なところは別に変わらないと思うんです。


あとは、自分自身も表現手法にもっとアートを使ってもいいのかもしれないなと思っていて。そこも難しく考えずに、好きな服着ていいよっていうのと同じ感覚で、好きに表現することをもっとやりだしたら、社会といろんな関わり方ができるようになるのかなと思ったりしています。ついデッサンができないと表現してはいけないとか、頭で考えすぎちゃうんですけどね。


土田:私もアートとファッションの差って、別にないのかなとは思っています。どちらかというと、 ファッションもアートの一部で、人が着るものという前提はあるものの、それ以外は、自由に表現して、形をつくって、立体にして、装飾してみたいなところでいうと似ていると思うし、すごく相性がいいんだろうなと思います。基本的に、ファッションは人間がありきで成り立つものだから、より人との関わりが深くて、親近感があるだけなのかなと。それにすごく時代を映す鏡でもあるなと思っていて、年代だったり、流行だったり、社会を反映するものかなと思ってます。

「The Fitting Room」映像作品より

ーそういう意味では、社会を反映する現代アートとファッションは立ち位置が似ていますね。

土田:ファッションは、単純に衣服だけを指すというより、スタイルとかその人の姿勢、まとっている感じも含むと思います。それこそ社会との親密な関係性がすごくあるなと思っていて、それはアートも同じで、時代性や社会、文化と深く関わりがあるじゃないですか。単純にその時代に生きるアーティストとデザイナーの間で、表現方法の違いはあったとしても、考え方とか、ものをつくる思考は、実はすごく似てる部分があるのではないかなと思っています。

ーただ、「アートは難しい、わからない」と縁遠く感じられる方も多い気がしますね。

土田:アートはクイズじゃないので、難しいということはなく、単純に感じたものが全てかなと思います。何も感じないのも、それはそれでその人の答えだし、「わからない、意味不明」でもいいんだと思うんですよ。「アートに対してどう感じたか」をディスカッションしたりする人もいますが、服に対してはあまりしないですよね?アートもそれでよくて、本当にサーッと見て、バーッと忘れてしまっても全然いいと思うんです。そういう意味では、アートに対して勝手に上げてるハードルを、服と同じぐらいに下げると言ったらおかしいですけど、当たり前のように見ていけば別にいいんじゃないかなと思っています。だから、ファッションとアートが交わることの可能性というよりは、今自分がこの社会に存在してて、この時代にあるものに触れて、ただそれを感じるだけでいいんじゃないかなと私は思っています。

ー最後に、展覧会を訪れる方々へ何かメッセージはありますか?

市原:土田さんのお話を聞いて、私もより理解が深まったんですけど、今回のアート作品は、訪れる人が何かを感じるにしても、もしかしたら何も感じないにしても、その人と接点があることで完成するのだと思います。ぜひ多くの方に関わっていただきたいです。


土田:フラットに「何かやっているな」と立ち寄ってもらって、ハッとしてもらえれば嬉しいです。アートを見にいくという感覚よりも、「ちょっと時間あるから、友だちのうちに遊びに行こう」とか、それぐらいのスタンスで、気楽に楽しんでもらえるといいのかなと思っています。

The Fitting Room

2023.10.20(Fri) – 2023.10.29(Sun)


期間:2023年10月20日(金)〜10月29日(日)

開館時間:11:00〜19:00

会場:ポーラ ミュージアム アネックス

所在地:東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階

来場特典:限定ノベルティ「レザーライクペーパーブックマーク」

     (数量限定・なくなり次第終了)

入場料:無料

主催:SOÉJU(モデラート株式会社)

協力:Bangal Dawson

協賛:株式会社スイッチ

Talk Live

これからの時代を生きる私たちとアートの関係


日程:2023年10月19日(木)15:00〜16:00

形式:ソージュ公式YouTubeアカウントにて、LIVE配信

申込:不要

登壇者:奥田 浩美氏(ウィズグループ代表)

    若宮 和男氏(起業家/アート思考キュレーター)

    市原 明日香(ソージュ代表)