その人らしい装いはどのようにして生まれるのか——自分らしい生き方を確立している方たちのライフスタイルとお気に入りの一着との関係性を紐解く連載『私を語る一着』。
第4回にご登場いただくのは、アスリートビューティーアドバイザーとして活動されている、花田真寿美さんです。
「アスリートビューティーアドバイザー」とは花田さんが考案した職業。その第一人者として、アスリートのメイクアップやメイクレッスンを担当するほか、管理栄養士や皮膚科医、コンディション二ングトレーナー、美容師.....各界の専門家たちとタッグを組み、「チームアスリートビューティー」として包括的な美のサポートプログラムも提供しています。
現在、支援体制を全国的に広げようと奮闘している花田さんですが、プライベートでは2児の母。多忙な日々を送る中、大好きなファッションで気分転換することもあるのだそう。
そんな彼女の最近のお気に入りが、シルクワイドリブニットのノースリーブとカーディガン。ご自身の価値観とこの一着がどのように結びついているのか、花田さんのストーリーをお届けします。
人生の転機で、服に勇気をもらえた
ソージュを知ったのは、フィガロが主催するBWA(Business with Atitude)がきっかけです。ご縁があり、2023年のBWAアワードで市原さんのメイクを「チームアスリートビューティー」のメンバーが担当しました。
事前にメイクのイメージをつくっていったのですが、その時に市原さんのインタビューを読んで、すごく共感したんですね。ちょうどその頃、私は出産後で自由に動けない時期でした。仕事ができないフラストレーションで男性に対して嫉妬心のようなものを感じていたこともあり、市原さんのインタビューにとても励まされたのを覚えています。
人生の転機を応援してくれるブランドとしてソージュを見ていたので、仕事に復帰する時は、ソージュの服を着て人前に立ちたいと思っていました。
出産後の体型の変化で鏡も見たくない気分だったのですが、イベントでソージュのヴィンテージサテンのノースリーブワンピースを着る機会があり「自分はこれからも大丈夫」だと思えたんです。服に背中を押してもらえた気がしました。
「メイクの力」を信じて起業
「アスリートビューティーアドバイザー」を起業する前は、モデルとして活動をしていました。
モデルを始めた頃は自分の顔が好きになれず、暗がりで化粧をするほどでしたが、とにかくメイクが上手くなりたくて、暇さえあれば百貨店でコスメブランドを回ったり、ヘアメイクさんに質問したりしていました。
そうしているうちに仕事の契約が取れ、人前に出る機会も増えて、自分のメンタルに変化が起きたのがわかりました。
やはり外見はすごく大きなきっかけになると思うんです。メイクやヘアセット、ファッションで、自分のことをいい感じだなと思える時は積極的に動けるようになるんですよね。
自信がつき自ら行動を起こすようになると、いろんな人たちに出会えて、世界が広がる。「メイクの力はすごい」と感じたことが起業のきっかけになりました。
メイクとアスリートが結びついたのは、私自身がアスリートだったことが影響していると思います。高校から大学まで強豪校でバドミントンを続けましたが、結果を出せずバーンアウトして、一時期はスポーツが嫌になってしまったんです。
高校時代はおしゃれすることが許されず、コンプレックスだらけで、男子学生の心ない一言に「人ってこんなにも見た目で判断するのだ」と傷ついたこともありました。美しくなることへの執着は強かったのだと思います。
起業して、最初は小さく始めましたが、メイクレッスンで生徒さんの嬉しそうな顔を見た時に手応えを感じました。そんなアスリートの表情に指導者の方々も驚いて、メイクをむやみに禁じるのは時代的に違う、と考えを変えた方もいます。
私もさまざまな反応に接して、この時代に必要なことだと確信するようになりました。
花田さんの仕事道具であるメイクブラシやコスメ。
自分を包み、肯定してくれる「シルクニット」
ここ最近、「自分の“好き”に素直になる」ということをテーマにしています。仕事と家庭のバランスを保つためにも、できるだけ目の前のことに集中して、体も精神も状態を良くしておくことを心がけています。
ママになると子ども優先で、常に自分の「好き」を後回しにしがちです。服装も講師という立場で選ぶことが多く、気づいたら、クローゼットを見ても「別にこの服好きじゃないな」と感じるように。もともと洋服が好きだったのに、ときめきを感じなくなっていました。
そんなタイミングで、シルクワイドリブニットのノースリーブとカーディガンに出会いました。コーラルオレンジの元気が出る色味に惹かれてアンサンブルで購入したのですが、シルクの上質さが見た目にも伝わり、自分をすごく肯定してもらっているように感じます。
この間、4年ぶりにひとりで映画館に行った時もこの服を着ました。休日は身体のメンテナンスに充てることが多いので、映画を観にいくのはすごく贅沢なこと。好きな服を着て、自由な時間を満喫しました。
そして、人に頼ることも大事。家事代行や区のサポートを利用したり、しんどい時はママ友に連絡してみんなでご飯を食べたり、いろんな人に助けていただいています。
2023年の夏にBWAのピッチコンテストでファイナリストに選ばれた時も、チームアスリートビューティーのメンバーに助けてもらいました。
本当は私が出場する予定でしたが、出産前の管理入院で身動きが取れなくなってしまったんです。ピッチでは起業のエピソードを話さなければならないので、最初は他の人に舞台に立ってもらうのは絶対に無理だと思っていました。でもメンバーに相談したら「頑張ります」と言ってくれて、緊張する場面でしっかりやり遂げてくれました。
ストーリーが伝わったからこそ、オーディエンスアワードをいただけたのだと思うのですが、あの経験が自信につながりました。
「粧い」から、行動に変化を起こしたい
今アスリートのビューティー面のサポートをしていますが、メイクのハウツーを教えるよりも、なりたい自分をイメージしてもらうことを大事にしています。
具体的には、あらかじめ用意しておいたワードの中から気になるものをピックアップしてもらい、イメージを絞りこんでから、メイクに落とし込みます。
たとえば、表彰台での自分がどんな表情をしているのかを想像してからメイクをすると、その時の自分になった感覚になれる。リハビリ中の選手がリフレッシュも兼ねてサービスを利用されることもありますが、「元気が出た」とおっしゃってくださいます。
アスリートがメイクをしてもいいし、しなくてもいい。今後「アスリートに自由な選択肢がある」ということを広げていきたいと思っています。それは女性アスリートに限らず、男性アスリートやパラアスリートも同じ。対象は幅広いと考えています。
男性のブラインドサッカー選手から仕事の依頼を受けた時に「自分は見えなくても、かっこよく見られていると思うことで自信を持ってコートに立てる」と言われたこともあります。ビューティーの影響力を実感しました。
私にとって「粧い(よそおい)」は、一歩踏み出す勇気を与えてくれるもの。表情の変化の先に、練習に積極的になったり、キャリアに前向きになったり、行動が変わっていくのを見るとすごく嬉しいですし、「この仕事をやっていて良かった」と生きがいを感じます。
聞き手/文:中島文子
《Profile》
花田真寿美
現役アスリートを中心に、引退後のアスリートや学生アスリート、スポーツを楽しむ多くの方に向けて、粧い(よそおい)と内面の両方を磨く「美」をテーマに、女性が自信をもって目標を達成するためのプログラムをプロデュース。学生時代は、バドミントンでインカレ出場。Precious one代表。
花田真寿美さんの一着