Interview vol.3
SOÉJU Meets
Naoko Okusa
いまをしなやかに生きる
女性のリアルな仕事服
いまや年齢やジェンダー、セクシャリティの枠を越え、自分らしさが尊ばれる時代。そんなムードと共に、現代女性の仕事服もよりフレキシブルに捉えられるようになってきました。
一方、選択肢が増えるほど、オンオフの境界が曖昧になり、大事なシーンの服装に悩んでしまうという方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、大人気スタイリスト、ファッションエディターとして活躍する大草直子さんにスペシャルインタビュー。現代に生きる女性のリアルな仕事服やアレンジ術、さらにはご自身のファッション観についてお話を伺いました。
相手を圧倒しないために意識したいのは、「柔和さ」と「バランスのよさ」
今回、大草さんにソージュのアイテムで組んでいただいたのは、調和や協調といった現代的なキーワードをイメージさせるスタイリング。ご自身の仕事服で意識されていることを伺うと、こんな答えが返ってきました。
「まず相手を圧倒しない、これは特に管理職の方にとって、とても大事なこと。たとえば、私が仕事の現場に行くと、そこで1番年上だったり、キャリアが長かったりすることもあります。そういう時に相手の方が気圧されない服を着ようと思っています」
「だから、初めて誰かにお会いするようなオフィシャルなシーンでは、クールで強すぎる黒はやめようとか、そこはすごく気をつけています」
大草さんが「柔和なバランスのいい仕事服」と語る、ジャージー素材のボウスタイルワンピースとロングノーカラージャケットの組み合わせ。大人の落ち着きとたおやかな表情が引き立ちます。
「ワンピースはトープのようなニュアンスある中間色、ジャケットのホワイトも真っ白ではないというところがポイント。バニラやエッグシェル(卵の殻)のような柔らかくて甘い色味です。女性の肌がすごく美しく見えて、着る人を華やかに柔和に演出してくれます」
ニュートラルカラーでまとめたスタイルに、ピアスやバッグのハンドル...さりげなくゴールドを配置して温もりを。大草さんのスタイリングは、常に全体を見て、トーンやバランスを微調整しているのが印象的です。
「服の色の温度が低めなので、ゴールドで平熱に戻してあげる。シャープでクールに見えるのはいいけれど、仕事上では親近感のほうが大事。血の通った温かさが欲しい時は、ゴールドのジュエリーを足すといいですよ」
遠目に自分を印象づける
グリーンのシルクボウタイブラウスに、ロングパールネックレスで顔まわりに華やぎを。非日常感あるシーンで、凛とした立ち振る舞いができる大人の女性をイメージさせます。
「シルクの柔らかさと優しさと光沢感がいいですね。鮮やかな色ですが、程よく光沢感を抑えた感じがあるので肌馴染みがいいんです。仕事の場面でも着られると思います」
「ボウタイとパールで縦長のラインを強調することによって、背を高くすっきりと見せることができます。立食パーティーや人前で登壇するシーン、少し遠目で自分を印象づけたい時におすすめ。ボウタイは、男性のテーラードジャケットの中にあるネクタイと一緒で、ジャケットを重ねることで、すごくフォーマルになります」
知性とは、シーンに合わせて知識を使うこと
柔軟な解釈で様々なスタイリングを披露してくれる大草さんですが、同時に、その着こなし方には、周りの人やシーンへの配慮を含む、品格が表れていることを感じます。
「ベーシックは、自分の中に常にあるものだと思います。例えば素材の特性とか、昼の服装なのか、夜の服装なのかとか、そういう知識はすごく大切にしています」
「私はよく、自分の子どもに『レストランに行くときは、サービスしてくれる人の服に準じた服装にしてね』と言っています。レストランの格がどうとかではなくて、それが1番分かりやすいから」
「ハンバーガーショップだったら、ポロシャツにショートパンツで構わない。でも白いシャツにブラックタイをしている人にサービスされるなら、シャツは最低限着てほしい。それはある意味、他人軸だし、知性として大事なことです」
時短で身支度が完成するセットアップは、忙しい女性のお守りアイテム。バッグとシューズに白をセレクトして、上手に「光」を入れるのも大草さんらしいアレンジ。
「パーフェクトにきれいなセットアップは、どこに出向いても恥ずかしくない、働く女性にとって、1セットあると心強いお守り的な存在」と大草さん。くわえて、着心地のよさも仕事をする上で大事な要素だと話します。
「このセットアップはカットソーのように全方向に伸びる素材。着心地が楽で、すごくリラックスできます。着ている本人が自然体でいられるのはすごく大事なこと。そのまとっている空気感は、周りにちゃんと伝わります。」
着用アイテム
小物使いで仕事モードに
仕事帰りにプライベートの予定があるときは、ドライタッチのフレアスリーブニットにロングスカートを合わせてフェミニンに。
「かなり高密度に編み上がっていて、フォルムがきれいなニット。ニットは体のラインを拾う心配があると思いますが、これはハリがあって、女性の体の気になるところをちゃんと隠してくれる。さらに、きちんと感があるというところが魅力だと思います」
「白と黒のメリハリがはっきりしているので、その真ん中の色は何か入れたいなと思って、トップとボトムのつなぎ役として、シルバーのアクセサリーを入れました。女性らしさはもう十分かなという時は、足元で抑えてあげると印象が変わりますよ」
自分と服の間の「余白」を愉しむこと
服を着ていて、自信のなさを感じてしまう原因になりやすいのが、サイズ感の問題。大草さんは服のサイジングにひとつの正解があるわけではなく、「自分が心地よいと思えるバランスが大事」と話します。
「私は自分と服の間にちょっと風が通るくらいのサイジングが好きです。ソージュの服は、程よいゆとりと余白があるんですね。体のパーツにぴったり合うテーラーメイドとは違う良さがあって、自分の好きなバランスで選んでいいと思いますよ」
「服に自分を当てはめようとするから、すごく難しくなるんです。いまの時代は柔軟になってきているし、いい意味で境界線が曖昧だから、着こなし方で、自分に服を引き寄せてあげたらいい。ソージュの服は生地や設計で、それがうまくできるようになっているところが絶妙だと思います」
シンプルシックなスタイルに、タイトにまとめた無造作ヘアで抜け感を。アクセサリーを無理に足さなくても、メガネひとつで理知的でスタイリッシュな表情へと切り替わることに、はっとさせられます。
「このブラウスは、デコルテや襟ぐり、腕の柔らかな部分が見えて、実際に着てみると十分に女性らしいことがわかります。だから、アクセサリーよりもメガネがちょうどいいバランス。モダンになりますよね」
「シワになりにくいのも肩肘張らない感じでいいですよね。シワになるのが悪いわけではないけれど、疲れや時間の経過を感じさせてしまいます。こういう扱いやすい素材があると、仕事やオフィシャルな場面でも自分が安心していられるかなと思います」
おしゃれは義務ではなく、誰もが享受できる「権利」
各スタイルに合わせて瞬時に小物やアクセサリーをピックアップし、袖口や襟元などディティールに様々なアレンジを加えながら、次々と服を着こなしていく大草さん。
そこに表れるのは、プロフェッショナルな経験に裏付けされた知性。本当のおしゃれは知性から生まれると言ってもよいのかもしれません。
「おしゃれというのは義務ではなくて、誰もがすべからく享受すべき権利。究極的には、無理しておしゃれにならなくてもいいと思うんですよ。偏差値みたいにわかりやすい基準があるものでもないし、結構個人的なことだと思うんです」
「そして、それは生まれ持った能力みたいなことでもない。データとエビデンスがあればみんなできるわけで、英会話のようにコツコツ練習していけば、うまくなるものです」
「例えばECでのサイズの選び方も、S,M,Lではない。ウエスト、バスト、腕の長さ、股下は何cmなのかを知っておけば、すごく買いやすいんですね。大事なのは自分の体と向き合うこと。客観視無くしては、なかなか心地いいおしゃれは実現できません」
「一番気に入っているパンツの股下を測ってみて。そうしたらどのサイズなら自分がかっこよく見えるかわかるから」
裸でいるよりも服を着た方があなたは綺麗
服や装いのことを熟知している大草さんにとって、「ファッション」とはどんな存在なのでしょうか?
「服が1枚なかったからといって、明日死ぬわけではないけれど、ファッションは、自分らしく前向きに、モチベーション高く生きるためのエッセンシャルな存在だと改めて思います。コロナ禍の3年間で、自分のためだけに服を着て、見せるシーンも限られて、機能重視で、という経験をしたから」
「社会性のために服を着るということもありますが、『裸でいるよりも服を着た方があなたは綺麗』ということなんだと思うんですね。だからファッションは成り立っている。それをオフィスシーンでできるのが、ソージュのすごいところで、みなさんはこういうものを探していたのだと思います」
「『会社に行く時、すごく綺麗な自分なんだよね』って、そういうシーンを大事にしようと思ってもらえるといいなと思います」
経験したことを伝えるトランスレーターとして
大好きなファッションの世界で、ひとつの役割にとどまらず、情熱的に仕事に邁進してきた大草さん。2019年にはセルフメディア「AMARC(アマーク)」を立ち上げ、新しいことにも果敢にチャレンジしています。その原動力はどこから湧いてくるのでしょうか。
「やっぱり生きていくため、食べていくために仕事をしているというのは、間違いなく言えること。でも生きていくというのは、ご飯を食べるだけではない。『自分らしく生きていく』ということが、私の原動力だと思います」
「私は自分のことを、『自分が経験したことをお伝えするトランスレーター』だと思っています。とにかくたくさん経験してきたことをシェアする。『みんな忙しいんだから、私のブログを見て、それで大丈夫だから』っていう気持ちでね」
よく笑い、流れるように話す大草さんは、膨大な知識と経験を、私たちに惜しみなくシェアしてくれます。その誠実な姿勢から強く伝わってくるのは、おしゃれの方法論よりもむしろ、「自分を愛し、幸せに生きる」というシンプルなメッセージ。
「おしゃれの持つエッセンシャルな力を信じて、『これがあったら、きっともっと前を向ける』というところのお手伝いをしていきたいですね」
Interview Photo Gallery
Profile
大草直子
ファッションエディター・スタイリスト
1972 年生まれ 東京都出身。大学卒業後、現ハースト婦人画報社へ入社。雑誌『ヴァンテーヌ』の編集に携わった後、独立。現在は、ファッション誌、新聞、カタログを中心にエディトリアルやスタイリングをこなすかたわら、トークイベントの出演や執筆業にも精力的に取り組む。近著『飽きる勇気』(講談社)。
2019年にはメディア『AMARC(アマーク)』を立ち上げ、「私らしい」をもっと楽しく、もっと楽にするために、ファッション、ビューティ、生き方のレシピを毎日お届けしている。2021年には、「AMARC magazine」を発刊。
Instagram: @naokookusa