「こうあるべき」から解放されたら、バランスの取れた自分に出会えた。株式会社おりおり 堀真菜実さんインタビュー
「SOÉJU(ソージュ)」がスタイリングサービスを提供した、「フィガロジャポン」主催のビジネスコンテスト「BWA Pitch Contest 2024」。本記事では、ファイナリストとして登壇し、観覧者とSNSの事前投票で選ばれる「Audience Award(オーディエンスアワード)」を受賞した、「株式会社おりおり」の堀 真菜実さんにインタビュー。
大手保険会社から旅行のスタートアップに転職、二児の出産を経て起業。仕事と子育て、コミュニティづくりに邁進してきた堀さんに、起業を決意した背景や仕事観、ソージュが提案したスタイリングの感想など、たっぷりお話を伺いました。(ピッチコンテストについてはこちらの記事をご覧ください)
今回のインタビューに合わせて、ピッチコンテストで着用したアイテムの着回しスタイルをスタイリスト UTSUGIが提案しました。堀さんに実際に着用していただいたスナップも合わせてお届けします。
目次
ママコミュニティの試行錯誤から、起業へ
見知らぬ家族と旅をする。堀 真菜実さんが2023年に立ち上げた、親子のコミュニティ旅「OLITABI(おりたび)」は、既存のパッケージツアーにはない発想がユニーク。乳幼児連れの旅を想定し、基本的に宿は貸切、親も子も心置きなく遊び、子どものお世話は参加者同士で補完し合うことで、みんなが身軽になれる。すでに活動実績を重ね、笑顔の連鎖を生んでいるプロジェクトは、BWAピッチコンテストでも多くの共感を誘いました。
フィガロジャポン主催「BWA Pitch Contest 2024」にファイナリストとして登壇した堀 真菜実さん。ピッチコンテストの観覧者とSNSの事前投票で選ばれる「Audience Award(オーディエンスアワード)」を受賞した。photography: Mirei Sakaki
堀さんがもともと旅好きであること、旅行のスタートアップ会社で潰れかけていた事業を立て直したこと、これまでの経験が現在につながっていることは確か。とはいえ、最初から一直線に起業を目指して動いていたわけではありません。「おりたび」を始めた背景には、ひとりの社会人として、妻として、母として、女性として、大事にしたいことに真剣に向き合う試行錯誤の時間がありました。
株式会社おりおり代表 堀 真菜実さん。
「おりたびを始める前に、まず40人くらいの小さなママコミュニティをつくりました。私にとって、やっぱり生の声がすごく大切で」
快活な堀さんの声のトーンが少し変わったのは、「コミュニティ」について語り出したときでした。彼女がつくる旅の企画は、コミュニティの存在が不可欠。そもそも「おりたび」を着想したのも、年子の出産後、コロナ禍で旅行会社や旅館が困っている声を聞き、数家族に声をかけて旅を企画したことがきっかけです。特につながりのない旅の参加者たちも、非日常の環境ですぐに打ち解けて伸びやかな笑顔を見せる。この時間がいかに貴重か、当時、育休期間で子育てに精一杯な日々を過ごしていた堀さんが誰よりも強く実感したことでした。
そこで、まず堀さんが実践したのは、50回にも及ぶママコミュニティでの座談会。このプロジェクトの必要性を周囲に伝えるには、堀さん自身が感じているモヤモヤをすっかり打ち明ける必要がありました。腹を割って育児の悩みや現在の不安を伝えると、ほかのママたちも本音を話すように。次第にコミュニティの文化も醸成され、メンバーの希望を拾いながら、さまざまな親子旅の企画を実現していきました。
「おりたび」では、旅を開催する前にコミュニティのメンバー同士が知り合える機会を設けている。(株式会社おりおり代表 堀 真菜実さん提供)
思い切って会社員をやめ、ママコミュニティや親子旅など、個人事業主として活動していく中で、本当にやりたいことを見つけた堀さん。コミュニティ旅の様子をSNSで発信していると、ある地方自治体から、「地域の魅力を伝える旅をプロデュースしてほしい」というオファーが届きます。突然降ってきたチャンスに、ベストな状態で対応したい。そう考えた堀さんはすぐに法人化に向けて行動を開始。それから約1ヶ月後「株式会社おりおり」が誕生しました。
「旅」というツールで、コミュニティにポジティブな変化を起こしたい
情熱的で行動力に溢れた堀さんですが、意外なことに「人づきあいは苦手」なのだと話します。
「もともと大人数の場に行くとすごく緊張してしまって、異業種交流会とか苦手な人間なんです。でも、そんな自分だからこそ、人を集めるとなったときに、『どんな人でも入れる場をつくる』というのを無意識にやっていたんだと思います。それがだんだん顕在化して、仕事になっている気がします」
そもそも新卒で入った大手保険会社から旅行のスタートアップに転職したときも、「コミュニティで旅をつくっていく」ところに惹かれたからでした。入社後、自らSNSコミュニティの最前線に立ってさまざまな旅に出るうちに、「観光事業者の視点ではなく、圧倒的な旅人目線」がインストールされた。一時、経営不振に陥っていた事業を1人で立て直し、3,000人ものユーザーと旅を共にした堀さん。「旅をつくるのが得意」という彼女の声には、確かな自信を感じます。
「子育てしていると、〇〇ちゃんママと呼ばれることが普通だし、世間の考え方に縛られることもありますが、そういう環境からママたちを連れ出したくて。純粋に何かを楽しんでいるうちに、いい変化が起こればいいなと思うんです。私は旅をつくるのが得意だから、ポジティブな変化を起こしたいと思ったときに、旅というツールを使おうと思いました」
お子さんの存在は起業の原動力に。旅のワードローブの常連は、オリジナルの「おりたびTシャツ」。(株式会社おりおり代表 堀 真菜実さん提供)
コミュニティ旅の参加者は、お客さまというよりも旅に主体的に関わるメンバー。複数の家族が集まると、まるでシェアハウスのような場になります。自然な役割分担の中で、子どもたちからお手伝いを申し出ることも。受け身ではなく、親も子も全力で楽しむことの価値を共有している。それが「おりたび」の文化になっています。
2024年9月に実施した島根ツアーの様子。島根県観光連盟や萩・石見空港の協力のもと、普段は一般人が入ることができない空港の滑走路を見学。大人たちの無邪気な笑顔が、旅の充実度を物語っている。(株式会社おりおり代表 堀 真菜実さん提供)
おしゃれへの苦手意識で、正解迷子になっていた
堀さんが起業してから1年も経たない状態で、出場が決まったBWAピッチコンテスト。華やかな表舞台で何を着ればいいのか、久々に装いに向き合ったものの、正解がわからない。独身時代から仕事第一だった堀さんにとって、洋服のことを考えるのはいつも後回し。子育てで手一杯のときは服装を気遣う余裕もなく、基本的にジーンズとTシャツがメイン。おしゃれが必要な場所に行く時は少ないレパートリーでなんとか着回ししていました。BWAピッチコンテストで着用する服も、一応はネットで探してはみたものの、購入ボタンを押さないまま保留にしていたのだといいます。
「スーツやスカートよりもアクティブな感じを出したくて、きれいめなオールインワンを選んでいました。色は無難にネイビーでしたね」
堀さんが一目で気に入ったと話す、ソージュスタイリストが提案したペイズリー柄ワンピース。ピッチコンテストでは羽織りとして着用していましたが、ワンピースとして着用。中にタートルネックのインナーを合わせた秋仕様の提案。
「場違いな格好になってしまわないか」という不安が強かったという堀さんですが、ソージュのスタイリングサービスで、普段自分が選ばない服を選んでもらえたことに喜びを感じた様子。スタイリストが提案したスタイリングを気に入り、具体的な着こなし方もしっかり再現して、ピッチコンテストに臨みました。
「見た瞬間に『これ買います』と即決でした(笑)。自分では、柄物はなかなか手を出せないのですが、色も素敵で親しみを感じました。今度行く海の旅でも着ていこうと思っています。仕事のことも想定して選んでいただけたのも嬉しかったですね。季節をまたいで着られそうです」
白のワイドパンツもお気に入り。上品な印象に仕上がるミラノリブニットのパーカーを合わせたカジュアルスタイルを提案。
「白のワイドパンツも、いまでは抵抗なく穿けるようになった」という堀さんに、スタイリングサービスの感想を聞くと、こんな答えが返ってきました。
「ありがたいサービスだなと思います。最近、診断系のものが多いので、正解迷子みたいな思考になってしまうこともあって。本当は『いいな』と思っていても自分では決められないというときに、プロの視点で似合いますと言っていただけると、自信をもって着られます」
スタイリングサービスを担当したUTSUGIと。着回しのアドバイスを受ける堀さん。
未来の幸せは、いまの自分を変えることから始まる
育児に追われながら、精力的にコミュニティ活動に奔走し、起業まで実現した堀さん。次々とオリジナルの旅企画をこなすタフさに驚きますが、以前は「子どもたちに死んだ顔を見せていた」時期もありました。
「自分ががんばった度合いで子どもの幸せが決まるというのは、勝手な思い込みだなと。目の前のお金のために会社員に戻ろうとか、もうちょっと子どもと一緒にいたいけど我慢しようとか、全部『すべき』で選択している人が一番身近にいたら、子どもたちまでそうなってしまう。子どもたちに自由に生きてほしいと思うなら、まず自分の思考から変えないといけないですよね」
「おりたび」を立ち上げ、本当にやりたいことに真剣に向き合うことで、「こうあるべき」の枠を外せた。「子どもにどんな背中を見せたいか」と考えたとき、彼女にとって起業は必然だったのかもしれません。
堀さんも以前から気になっていたという、ロングノーカラージャケットを組み合わせて、凛としたパンツスタイルを演出。
そして、最近は家族の理解もあり、ようやく「暮らし方のバランスが取れてきた」と感じているとのこと。
「私自身は起業に向いているとは思っていなかったのですが、夫は出会った頃から『自分が思う通りにやったほうがいい。その方がいろんな人を助けられるから』と言ってくれていました。だから私がいま挑戦していることは嬉しいようで、家庭を一緒に支える形で、家事や育児に協力してくれています」
いま堀さんがお子さんに見せたいのは「挑戦する姿」。きっとそれはどんな言葉よりも、力強いメッセージとして伝わるはずです。
《堀真菜実さん プロフィール》
株式会社おりおり 代表取締役。
大学卒業後、東京海上日動に入社。その後、旅のスタートアップ企業で事業責任者として赤字事業の再建に取り組み、200以上のオリジナルツアーを企画。体験を共にした旅行者は延べ3000人にのぼる。
2児の出産や子どもの闘病生活を経て、ライフスタイルに対する葛藤を抱えた経験から、同じように日々奮闘するママ・パパを支えたいと決意。2023年、親子のための旅サービス「OLITABI」をスタート。地方自治体や旅行会社と連携して、複数の家族が助け合って旅する独自のツアーを企画する。
文:中島 文子