共感し合う2人が語る。「働く」を通して育む、生き方を肯定するコミュニティ

「SOÉJU(ソージュ)」を運営するモデラート代表の市原明日香が「新しい選択肢を創り出す女性たち」のひとりとして選ばれたBWA AWARD 2023。2021年に日本でBWAのプロジェクトが始動してから3回目の開催でした。

「BWA(Business with Atitude)」はフランスの雑誌「マダムフィガロ」が2016年、当時まだ少なかった女性の起業家を支援していくことを目的に開始されたプロジェクトです。

フランスに倣って「フィガロジャポン」のBWAが始動したのは、日本でも多くの人々の働き方が変容したコロナ禍の最中のこと。衣食住を軸に育んできた「アールドゥヴィーヴル(暮らしの美学)」という価値観に「働く」も加え、セミナーやアワード、BWAコミュニティの交流を通じて、豊かな働き方のヒントになる情報を発信し続けています。

アパレルブランドとメディアという異なる立場であっても、ソージュとBWA、双方の価値観は重なるところが大きく、コラボレーションの機会が増えています。今回は、お互いに「共感できるところが多い」と話す、BWA事務局長の藤本淑子さんと市原が対談。おふたりの仕事観や仕事を通じて実現したい世界観などたっぷり語っていただきました。

左:フィガロジャポンBusiness with Attitude事務局長 藤本淑子さん / 右:モデラート株式会社 代表取締役 市原明日香

《プロフィール》

藤本淑子(ふじもととしこ)
(株)CCCメディアハウス フィガロJP編集部 フィガロジャポンBusiness with Attitude事務局長。
1987年大阪府生まれ。国際基督教大学教養学部卒。地方新聞記者、フリーランスライターなどを経て、2019年CCCメディアハウス入社。官公庁の国際広報誌編集などに携わったのち、21年フィガロ編集部に。『フィガロジャポン』の公式ウェブサイト『madameFIGARO.jp』の編集を担当。22年からは、働く女性たちを応援する『Businesswith Attitude(BWA)』プロジェクト全般を統括する。

市原明日香(いちはらあすか)
モデラート株式会社 代表取締役。
1976年福島県生まれ。東京大学教養学部卒。2児の母。アクセンチュア株式会社で3年間経営コンサルティングに従事、ルイ・ヴィトンジャパン株式会社にて4年間CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)に従事。息子の看病、フリーランスの期間を経て、2014年12月にモデラート株式会社を設立。

働くことをずっと哲学してた

藤本:「フィガロジャポン」は、何気ない暮らしを楽しもうとする、「アールドゥヴィーヴル(暮らしの美学)」という考え方を大事にしています。

これまではライフスタイル全般を扱う中で、「働く」の要素が弱かったのですが、やはり働く上でも自分の哲学があった方がいいですよね。働くことを楽しくしていこうというコンセプトで、2021年に初のBWAアワードを、そして翌年に事務局を立ち上げていまに至ります。

市原:働くことは人生の中で時間的な割合が大きいですし、働く意味というものがしっくりくるものであってほしいですよね。

藤本:私はもともと地方の新聞社で働いていて、東京の方と結婚したのを機に転職しました。その後色々あってフリーランスのライターとして仕事をしていたのですが、夫がフランスに転勤になるということで一緒に行ったんですね。

当時はすごく楽しいと思う反面、いままで仕事をすごく頑張ってきた自分がなかったことにされるような気がして。キャリア志向とかそういうことではなく、その時に私はやっぱり仕事が好きなんだと実感しました。

日本に帰って「フィガロジャポン」に加わって、いまBWAの事務局を担当していますが、働くというのはやっぱり生きることだから、男女問わず、いろんな働き方があるというところを発信していきたいなと思っています。私はずっと働くことを哲学していたのかもしれないですね。

市原:働くことが自分からなくなるかもしれないとか、一時的になくなった時に、働くことの意義を感じるということですよね。私も新卒で就職してから息子が病気になるまでの間、仕事をしているときはやりがいを感じていたし、多分すごく没頭していたと思うのですが、ただやっぱり辛いことも多くて。

藤本:そう、多いですよね。

市原:当時は何ヶ月か先の家族旅行を楽しみに毎日頑張って、家族旅行に行ってちょっと水面から顔を出して息を吸ったら、また仕事に潜って、もう息が続かない、みたいな感じだったんですね。

でもいまはそういう感覚は全くないんですよ。家族が上で呼んでいても、まだ潜っていたいと思うんですけど(笑)。

起業して誰かにやらされているというのがない状態だからなのか、それとも一度ある意味仕事を失った経験があって、いま仕事ができていることがすごく嬉しいからなのか、まだ分からないところで。だからモデラートに参画してくれている人たちは、どういう気持ちなのだろうと考えます。

理想論になりますが、会社を通じて実現したいと思っていることと、会社に参画している人たちが実現したいと思っていることが重なれば重なるほど、やらされてる感がないのかなと思います。

「レンガを積んでいると考えるのか、教会を作っていると考えるかで気持ちが違う」という例え話がありますよね。まさにそういうことなのかなと。モデラートも教会を作るためのことを考え続けていきたいし、成長のための成長みたいになってはいけないなと思います。

「全体の中で生かされている私たち」という感覚を持ち続ける

市原:世の中にアパレルはたくさんありますよね。自分たちがいまからやる意味が本当にあるのかと、ことさら考えてしまうんです。本当はプレイヤーを増やさない方が効率的かもしれないですが、いまは自分たちだからできることというのが、自分たちの存在意義だと思っています。

量で解決しにいくアプローチではないものに解決策を生み出すことが、自分たちの存在意義なのではないかと思っていて。その中で、会社としてしっかり利益を出していきながら、社会に有益な仕組みや活動をサポートしていきたい。意志を持って使うべきところにお金を使っていくのも、会社としてやっていく意義なのかなと思います。

「全体の中で生かされている私と私たち」みたいな感覚を日頃のビジネスの中でも常に持っていたいと考えています。

自然環境に対するサステナブルやエコという観点ももちろん大事ですが、広く社会にとってよい活動を支援していくことも会社の意志ですよね。それもお客様が属するコミュニティに対して、お客様からお預かりした利益を循環させていることになるのかなと思います。

藤本:五感を働かせるのはすごく大事ですよね。働き方や起業のあり方において、感性や感覚といったものが蔑ろにされがちだというのは、BWAを通して感じていることです。壮大な世界観があって起業家を目指すというのも大事ですが、そうではない形もあります。

女性の起業家の方々を見ていて身近な課題から起業する方が多いと感じますが、日本ではそれに対して、スケールに繋がらないなどと一方的に評価する傾向がありますよね。私はBWAを通して、いままでの“正解”にとらわれないビジネスのあり方があってもいいということを発信していきたいと思っています。

そこからカルチャーをつくっていくことができれば、市原さんのような思いを持っている方がもっと発信しやすくなって、こういう働き方があるんだと気づく人も増える。

身近な課題が大きな共感を生むということを、私たちメディアは情報の発信で支えていくことができます。そこを丁寧にやっていくことで、社会をよりよくするためのきっかけや選択肢を増やせるのではないかなと思っています。

「ソージュ」で表現していくモデラート的なあり方

藤本:BWAのセミナーの参加者から「どうやったらきちんと生き残れますか」「何が正解なのかわからない」という切実な声を聞くこともあります。見えない“正しさ”みたいなものにはまらないと生きてこられなかったのが、これまでの世の中なんだろうなと考えさせられます。

「フィガロジャポン」はライフスタイル誌なので、いろんな選択肢を見せられる。好きなものは好きでいいという、それぞれの偏愛も「アールドゥヴィーヴル」の考え方の中で大事にしています。

市原:本当に偏愛ってすごく大事ですよね。誰から止められてもやらずにはいられないことが、一番強いなと思います。多分藤本さんがBWAに向き合っているのと同じような気持ちで、私もモデラートで仕事をしているのですが、もう止まらないんですよね。

私にとって、モデラートが取り組もうとしていることは人生のテーマでもあって、暇さえあれば考えています。

藤本:市原さんの会社は、思いを話せる環境があるというのがすばらしいですよね。皆さんがよい未来に向かって走っていらっしゃるのがわかりますし、ソージュも質のよいものを嘘なく提供してくれる、服のベースを作ってくれているブランドだと思います。手の届きやすいベーシックな服を展開していますが、背景にしっかりストーリーがあり、それを伝えようとしています。

ファッションブランドそれぞれに哲学があるということを、私に最初に教えてくれたのが、ソージュかもしれません。社員の方々が市原さんのビジョンを一緒に実現しようとされているところに、いつも感動しています。

市原:ありがとうございます。もはやいい意味で私の手を離れ始めているなと思っているところもあります。

つい先日、スタイリスト宛にお客様からの感謝のメッセージが届いていて、それを読んでとても感動したんですが、本当にひとりひとりがソージュをつくってくれているんだなと。ひとつひとつのスタイリング、1枚1枚の洋服、ひとつひとつの企画、コンテンツ......全部が重なって、ブランドが出来上がっているのだと思います。

藤本:モデラートの皆さんは個性が立ってるというか、それぞれ違う思いを持っているけれど目指すところが一緒で、自分たちの経験を生かしながら働かれていますよね。皆さんが自分の言葉で話すことが、全てモデラートの理念に繋がっているというところがすごいなと思います。

中庸を目指すことは、終わりなき実践の連続

市原:モデラートという言葉は、端的にいうと中くらいという意味ですが、単なる中くらいではなくて、いまは「中庸であり続けること」を考えています。いわば道(どう)のようなもので、中庸を目指すことは終わりなき実践の継続でもあって。

常に全体を把握しながら、ちょうどいいところを探っていくことになるので難しいのですが、会社の名前をモデラートにした時よりもストイックな感じになってきています。BWAも常に社会全体を見て今年のテーマを考えたり、探究の道ですよね。

藤本:そうですね。答えが出るのか出ないのか分からない中でやっていますね。

市原:その正義を振りかざしていないところが素敵だなと思います。

藤本:コミュニティとして、みんなで一緒につくっていく、というところは大事にしていますね。仕事をしてきた中でいろいろ後悔もありますが、その経験がいまに繋がっているように思います。

「あの時にこういう選択肢があったらもっと楽しく働けた」という積み重ねを、いま女性の活躍を応援する取り組みを通して生かすことできる。以前の同僚と雑談から一緒に何かやろうという話になったり、私だからできることをようやく見つけた気がしています。

メディアのコンテンツを受け取る方々が喜んでくださることはもちろんですが、一緒に働いている人の得意を探して、それを活かせたときに喜びを感じます。プロジェクトに関わる人たちの中で、「この人はこれが得意なんだな」と傍から見ていてわかる時があるんですね。仕事を任せることですばらしい成果物ができて、その人自身も楽しそうにしている姿を見るのはやっぱり嬉しいです。

市原:私の場合は、仕事は自己実現のためではなく、課題解決という気持ちが強いのですが、いつも解けないパズルに向き合っている気持ちなんですよね。誰かにもうやめとけばと言われても続けてしまうくらい好きなことなので、それをやっていること自体が幸せなんです。

でも、いま藤本さんの話を聞きながら、仲間づくりは大事だなと思いました。漫画の「ワンピース」じゃないですけど、仕事は仲間をつくることができる場ですよね。ミッションをみんなで乗り越えることができるのは、仕事ならではなのかなと思います。

評価するのではなく、応援し合うコミュニティに

藤本:この間、伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎さんの本*を読んで、「働くとは『見返りを求めない愛』と同じ」という言葉に感動しました。

会社が成長することで社会に尽くすことになる。それが最終的に人の幸せに寄与する、というお話なのですが、市原さんを見ていると、本当に社会のため、人の幸せのために、という思いをもって経営されていて、それが社員の方にも伝わって、皆さんが「市原さんと一緒にやりたい」と言われているのが本当にすごいなと。

会社を通して皆さんが掲げているところとソージュの世界観が一貫しているところが素敵だなと思っています。

*『仕事と心の流儀』(講談社現代新社刊)

市原:冷や汗かいちゃいますね。すごくがんばらないと(笑)。

藤本:ライフスタイルを扱うメディアとして新しいカルチャーをつくっていく中で、社会をよくしていきたいとか、みんなが幸せな方がいいと思うのですが、幸せって答えがないものなので、結局個々で考えていくことになりますよね。

一方メディアに関わる者として、How toや何が正解かばかりを発信してきたのでは、と反省点も感じています。じゃあ私たちは何ができるかとなったときに、BWAでよい社会をつくっていこうと。まだ事務局は2人なんですが(笑)。

市原:2人というのは、大変なコミュニティ運営ですね。

藤本:年々コミュニティも大きくはなっていますが、出たり入ったり、変化することも含めて私たちのプラットフォームがあります。ビジネスではなく、その人の生き方を応援するというプロジェクトなので、いつ出てもいつ帰ってきても応援しますという立場でいたい。起業しても事業計画が変わることはありますよね。

市原:確かにそうですね。

藤本:私はよくピカソの話をするんですが、ピカソは時代によって作風が大きく違いますよね。でもそれもひっくるめて、あれだけの膨大な作品群を生み出してきたピカソがすごいということなのだと思います。

私たちは女性の変わりゆく考えも含めて応援したいと思っているので、こうあるべきというルールはないんですね。ただ、批判せずに応援し合おうという姿勢は大事にしています。

市原:すごく共感しますね。ソージュを立ち上げて1年目くらいの頃にnoteで同じようなことを書きました。「私たちは正しい。あなたは正しくない」というのではなく、固定観念に縛られずに私たちは楽しいことを大事にしている。そこから「あっちが何だか楽しそうだね」と感じてくれる人が増えて、より盛り上がる。そういうアプローチを目指したいと考えて書きました。

藤本:熱いですね。

市原:そういう思いは変わらず抱いていたりしますね。強く発信してきたわけではないのですが、こういう形でBWAと繋がると感慨深いです。

藤本:今年のBWAアワードの受賞者の方とも「正解は暴力になりうる」という話ですごく共感しました。正解は結局自分が決めるものなのだから、他人に振りかざすものではないというのは、私もずっと思っていることで、多分市原さんもそうお考えなのかなと

市原:そうですね。なかなか言葉の定義は難しいのですが、正しい、正しくないで言うと、対立が起きてしまいますよね。正しさを押しつけるのではなく、でも善なるものはきっとあるんですよ。コミュニティの共通の価値観というか、よいものは目指したいなと思っています。

 

文: 中島文子

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